作詞者・作曲者の言葉

●ウミホタルの光に魅せられて

≪作詞者・大門高子≫

 

新卒の2年間、房総保田の養護学園に住み込みで勤務していました。高台の学園からは、東京湾が見渡せ、房総の海は、今も私の心の故郷の風景の一つにもなっています。当時、館山が戦時中に軍都であったことや、ウミホタルが見られたことなどを知る由もありませんでした。知らないということは見えないということでもあり、多くの人が同じだったと思います。

その後、東京湾岸道路のサービスエリアが「うみほたる」と命名されたことや、ウミホタル研究の第一人者であった静岡大学の阿部勝巳教授が事故で亡くなられたということを新聞記事で読み、そのなかで不思議な光を発するウミホタルが、戦時中軍事利用するため子どもや学生たちに採取させていたということを知りました。

2002年、館山で日韓の歴史教育研究大会があり、絵本『むらさき花だいこん』(文 大門高子 絵 松永禎郎)の実践が報告されるということで、お知らせをもらいました。そして、何とそのなかに会場である「たてやま夕日海岸ホテル」でウミホタル鑑賞があるということが書かれていました。館山の海岸には何度か行っていましたが、実際にウミホタルを見たことがなかったので、何としても参加してみたいと訪ねたのです。

その会場では、地元の高校教師で歴史教育者協議会員の愛沢伸雄先生や「沖ノ島サンゴを見守る会」の三瓶雅延さんと出会いました。まずウミホタルの光にロマンを感じているお二人の熱のこもった話に引き込まれました。そして何といってもウミホタルの光の美しさに心を奪われました。神秘的に光る青い色はまさに宇宙の命の色でした。戦時中は、生きることだけでなく、学ぶことも働くことも研究することも戦争を中心に進んでいました。こんな美しい光でさえ戦争に勝つ手段として研究されたのです。

それから何度か館山に通って、ウミホタルを熱心に研究している先生方や子どもの頃ウミホタルを集めた方たちを訪ねたり、また自然発光する様を見るために実際に海岸で徹夜したり、さらにはかつて陸軍第八研究所(今の東京学芸大学)で研究していた巨勢寛さんともお会いして話を伺いました。これらの事実を何とか合唱組曲に出来ないものかと考えました。私は、これまで音楽活動を通じて、歌は年齢を超え、歴史を超え、国を超えて、お互いの心を一つにするものであると実感してきました。

館山には戦争遺跡を保存することや、美しいウミホタルの光をもっと多くの人に知らせ、海の環境や平和を発信しようという市民の皆さんがいました。その方々と一緒に演奏会に取り組むことが出来たら、何て素敵なことだろうと思っていました。そして「戦後60年」である2005年にウミホタル合唱団として実現し、今日に至っています。

ウミホタルの合唱組曲を歌うことで、多くの人びととの出会いがあり、この音楽によって心を通いあわせ、平和の願いを発信する新たな取り組みがはじまったのです。ウミホタルは日本全国の海に見られるといいます。この光に平和の心を寄せて、世界の皆さんとともに歌われていくことを願っています。

 

●ウミホタル合唱団として発信

≪作曲者・藤村記一郎≫

この作品は、2003年夏に、詩人で元小学校教諭の大門高子さんと、「千葉から愛と平和を!合唱団」の塙治子さんから依頼され、作ることになった曲です。でも、合唱団がどこかで初演するからということではなく、「ウミホタルの美しさとウミホタルにまつわる戦争中の歴史、そして館山という地に惹かれて」作り出したのです。

お話の舞台は千葉県館山市。ウミホタルの美しさを実際にナマで見ようと、館山まで出かけ、三瓶雅延さんらが作る「ウミホタル観察会」に参加し、その幻想的な美しさの虜になりました。また、戦争中の歴史を高校教諭の愛沢伸雄さんに伺って、館山の戦跡を案内していただきました。

大門さんからは、何稿もの詩をいただき、詩や全体の構成のキャッチボールも重ね、ぼくの中でもずっと温めながら、2004年5月まできました。塙さんから、5月の末に、関東のうたごえ交流会という行事を館山で行うにあたり、1曲でもできていたら参加者で練習がしたい、という依頼を受け、5月10日から30日にかけて、結局ほとんどすべての曲を作ってしまいました。1時間ほどの初練習会には、地元の方々も含めて、100人以上の人が歌ってくれました。さらに、7月30〜31日には、同じ館山において、今度は私が関わる「全国教育のうたごえ交流会」という行事を行い、そこでは地元の館山の合唱団の方々によって「ウミホタル」組曲による歓迎演奏をしていただきました。

そして、ついに2005年9月3日、ウミホタルを愛する地元・館山の人たちの手で初演が実現することになりました。自然を愛し、歴史を語り継ごうと、たくさんの方々の力で全国に発信するウミホタル合唱団ができ、合唱組曲が歌い継がれていることを心から喜んでいます。