海とアートの学校まるごと美術館 開催の報告と御礼
嶋田博信(青木繁《海の幸》誕生の家と記念碑を保存する会会長)
(房日新聞2019.5.30付)⇒印刷用PDF
館山市富崎地区は、マグロはえ縄船発祥の漁村として栄え、日本一人口密度が高かったといわれますが、今では市内で最も少子高齢化が進んでいます。当会は10年にわたり、富崎地区コミュニティ委員会・NPO法人安房文化遺産フォーラムと協力しながら、歴史文化遺産を活かした地域活性化活動を行なってきました。
このたび大型連休に旧富崎小学校の空き校舎を利活用し、「海とアートの学校まるごと美術館」を開催しました。館山市・同教育委員会・同観光協会・房日新聞社の後援を得て、また毎日のお楽しみ企画や販売など多くの皆様のご協力をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。
おかげ様で、卒業生や地元の皆さんをはじめ、NHKニュースを見て県外からいらしたという方や、二度三度と繰り返し足を運ばれた方もおり、青木繁「海の幸」記念館(小谷家住宅)と合わせて延べ1700人の方が来場しました。
アンケートでは、「素晴らしい企画で感動」「とても見応えがあった」「こんな利用の仕方を思いつく発想が素晴らしい」「館山には美術館がないので楽しかった」「地元の皆さんがよく協力して運営しているご努力に感激した」「ボランティアの皆さんに感謝」「改めて自分の育った土地の良さを実感した」「館山にいても知らない世界を見られて感動した」「我が母校が美術館になって嬉しい」「館山ゆかりの作家をとても身近に感じた。もっと多くの人に知ってほしい」「絵画だけでなく、すごい資料を揃えていて素晴らしい」「このような企画をまた期待する」「美術館の学校として年間オープンしてほしい」「市民の財産を耐震強化し、地域活性化のために有効活用してほしい」などと、喜びの声や温かいご意見が寄せられました。
なかでも寺崎武男画伯については、ご遺族から提供された原画の数々に、我々運営側も来場者もその迫力に圧倒され、あらためて感動しました。私の同級生でもあるご子息の寺崎裕則氏が東京から駆けつけて、お父上の画業についての話して下さいました。それを伺いながら、高校の美術部であった私自身も懐かしく、そして誇らしく思い出させていただきました。
館山の海を愛し、自ら「海洋の画家」と称した寺崎画伯は、海の作品をたくさん描いています。壁画家であった画伯は、「作品の対角線の7倍離れた距離から見ると浮き上るように描いている」と言っていたそうです。今回は体育館という広い会場だったため、たしかに波が大きく揺れ動いているように見えました。今回は、横山大観とともにローマで開催した日本美術展覧会の作品集や、青木繁の名が記された手帳など価値ある展示品も多彩にあり、今後の調査研究が期待されるところです。
重要文化財「海の幸」を描いた青木繁だけでなく、日本美術史に大きな影響を与えた画家たちがこの地に住んでいたということは、私たち市民の誇りです。夏には、渚の駅ギャラリーを会場に、小規模ながらも「館山の海を愛した画家たち展」を開催する予定です。再び多くの皆様にご覧いただければ幸いです。
青木繁「海の幸」記念館(入館料200円・小中高100円)は土日のみの開館ですが、平日でも団体見学の予約を受け付けています。「友の会」会員(年会費2千円)は、記念館の入館無料のほか、会報でイベント情報などをお知らせしています。息長い維持運営とまちづくり活動を目ざし、皆様のご理解ご支援をお寄せいただけますようよろしくお願いいたします。
問合せ0470-22-8271
【読者のコーナー】
布良のイタリア楽しんだ展覧会
(房日新聞2019.5.28付)
5月の連休は、寺崎武男の絵画を見たくて、館山市布良の旧富崎小学校で開催された展覧会を見に出掛けました。
寺崎武男の絵画を初めて見たのは南房総市白浜町の下立松原神社で、房州に伝わる神話を描いた壁画でした。それから他の作品を見たいと思いました。
今回の展覧会で、神話画以外の多くの絵に初めて触れる事ができました。戦争画や仏教画、さらに国史絵画もあり、題材は目まぐるしく変わるものを感じましたが、ベネチアを舞台に描いた絵画が多く展示されていました。
今は現代アートの祭典としてよく知られているベネチアビエンナーレに、戦間期に参加して日本人として初めて入賞していたのは驚きでした。そして戦後は、イタリアで学んだフレスコ画、テンペラ画、エッチングとリトグラフの版画を房州の若者たちに伝えていたとは。
さて会場展示作品のなかで一際目を引いたのは、布良?神社に鳥居型の額装で奉納されている絵画でした。
天富命が布良に上陸したシーンを描いた絵で、フレスコ画のような絵具層の剥落が見られました。
工業生産されたチューブ入りの絵具を使わないで、顔料と展色剤を自ら混ぜ、支持体、基底剤は自家製を使用しているのが確認できました。
描かれた当時は新しい画材の研究が進んでいなかったため、イタリアと風土が異なる日本で、ルネサンス期の古典技法の中から材料と技法を選択して、独自の表現を試みていたのでしょう。
剥落からかろうじて残った画面に描かれた船の大群や潮の躍動感から、眼前に迫り来る印象を受けました。
何が描かれているかではなく、画家に描かせた衝動はどこからきているのかを知りたくなりました。
心の中には天正遣欧少年使節も訪れたベネチアのきらめく陽光や水面への映り込みがあったのかもしれないと思いました。
今後、寺崎武男が日本美術史で重要な画家として注目されていくのが、非常に楽しみです。
(館山市 吉良康矢)
子ども神輿 布良で新調
6月2日にお披露目
(房日新聞2019.5.28付)
館山市の布良地区で、子ども神輿が新調された。6月2日には同地区の布良?神社でお披露目をすることになり、地区内外から担ぎ手の子供たちの参加を呼び掛けている。
子ども神輿は、70年ほど前に地元商店の寄付でつくられた。老朽化が激しいため、地域住民、関係者の寄付で新調された。「大人神輿みたいに、立派」と住民ら。
お披露目は午後2時からの予定で、参加者は祭り衣装で集合する。
問い合わせは布良青壮年会の豊?会長(190-8052-0109)へ。
34人が画家の聖地吟行
互選1位は三尾敦子さん
館山俳句連盟が富崎地区で
(房日新聞2019.5.9付)‥⇒印刷用PDF
館山市俳句連盟(庄司風樹会長)による、「画家たち(青木繁・寺崎武男・倉田白羊)の聖地を巡る吟行句会」がこのほど、旧富崎小学校であり、34人の俳句愛好家が参加した。富崎界隈を各自巡り、俳句を投句。
鳥曇という晩春の季語のような一日で、愛好家らが旧富崎小の図書室に集い、5時間余り俳句三昧の時間を過ごした。
旧小学校から布良崎神社、青木繁記念館、釣り人が居ならぶ漁港などを吟行。学校が「まるごと美術館」となった校舎内の展示を巡った。圧巻は体育館の寺崎武男、倉田白羊、青木繁の作品(複製を含め)群。多くの句材に刺激を受けて佳句が生まれた。
上位成績は次のとおり。=敬称略
【互選1句得点順】
▽ 1位=長靴を逆さに干して漁港初夏(三尾敦子)
▽ 2位=鉄棒の錆びて夏草生ふる庭(伊藤よし江)
▽ 3位=揚げ船の女名前や浜大根(森とし子)
▽ 4位=忌部氏の下り立つ浜や磯菜摘む(櫻井泰)
▽ 5位=安房節の歌碑の字白し青葉潮(古居芳恵)
【選者特選2句】
*庄司風樹選
▽ 鉄棒の錆びて夏草生ふる庭(伊藤よし江)
▽ 布良浜にきらりと光る裸婦の顔(吉田信男)
*滝口照影選
▽ 延縄漁を唄ふ安房節菜種潮(石崎和夫)
▽ 長靴を逆さに干して漁港初夏(三尾敦子)
*石崎和夫選
▽ 雄叫びの「海の幸」より布良暮春(森とし子)
▽ 長靴を逆さに干して漁港初夏(三尾敦子)
【参加者の1句=投句順】
・布良岬一直線に春の潮(沖村 菊江)
・一舟を沖に浮かべて富士かすみ (浅沼智栄子)
・夏近し学舎護る尊徳像 (川崎 一美)
・ランドセル見ればなつかしわが母校(吉田 信男)
・老いて尚一歩踏み出す青葉風 (高梨 光素)
・校歌の碑歌ふ児等なく春の庭 (伊藤よし江)
・春の浜こころ青春令和へと((沼野 和子)
・元禄の津波の高さ鳥曇 (長谷川エイ子)
・浜大根風のすき間の漁師船 (古居 芳恵)
・海の幸繁愛せし布良の浜 (牧野 力)
・廃校のプールに残る児らの声 (山中 宏子)
・雄叫びの「海の幸」より布良暮春 (森 とし子)
・南風吹く女神男神の山の息 (伊東 茜)
・潮満ちて春の大島近くなり (粕谷 艪水)
・春光や画布に岬の女神顕つ (石崎 和夫)
・布良沖の釣り人自慢いさき漁 (田中 信子)
・布良沖に鎮魂のうねり夏兆す (湯川 敬人)
・廃校の椰子一本に初夏の風 (庄司 風樹)
・布良沖に日の島のあり躑躅燃ゆ(里村 梨邨)
・ゆるゆると遥か船行く春の海 (広沢 真弓)
・安房節も延縄漁も此処風薫る (小谷たかし)
・記念碑は幣のかたちよ風光る (斎藤 一向)
・岩座に宿る神の意初夏の海 (角田 秀子)
・つばくらめ阿由戸の浜をひるがえり(庄司 泰雄)
・若葉風「繁」の布良の白鳥居 (小形 博子)
・廃校の寂しさは蒲公英の花 (滝口 夢丼)
・安房節の碑に風渡り卯波立つ (滝口 照影)
・行く春や彼の眼差しは誰に向く (粕谷 洋子)
・夏座敷正午を告げる旧時計 (櫻井 泰)
・新しき砂敷きつめ社初夏 (三尾 敦子)
・魚島や担ぎて一人こちら見る (田辺 正子)
・夏めく海や延縄を想像す (星加 晴美)
・十連休渚は女波返しをり (渋尾 正夫)
・レリーフのたねさん撫づる柿若葉 (平嶋 共代)
「安房地域の図書館史」語る
安房歴史文化研究会_25日に館山で公開講座
(房日新聞2019.5.18)‥⇒印刷用PDF
安房歴史文化研究会の今年度第1回の公開講座(通算59回)が、25日午後2時から館山市北条の市コミュニティセンターで開かれる。アワブンカイサンフォーラムの会員の関和美さんが「安房地域の図書館史」のテーマで語る。資料代として200円。
関さんによると、近代的な文庫や図書館が設置されたのは明治期から。安房地域で明治期に設置された文庫・図書館には、1903(明治36)年に開設された佐久間村(現、鋸南町)の「御大典記念私立奥山文庫」や、1912(明治45)年に設置された館野村(現、館山市)の「簡易図書館」などがあるという。
「学校図書館」については不明なことが多いが、千葉県教育史に位置付けられる旧安房南高等学校資料を確認しているなかで、学校図書館に関わる貴重な資料が発見された。その資料を検証するとともに、戦後日本の学校図書館の発展に重要な役割を果たした長狭高等学校図書館活動の資料などを紹介する。
安房地域の図書館活動に関わる人物や出来事では、とくに鴨川地域で戦前から文化活動のリーダー的存在であり、その後鴨川町図書館長として功績があった医師原進一氏を中心に取り上げる。あわせて今を生きる安房の「図書館人」に求められていることを考察するという。
問合せは、事務局の石?和夫さん(0470-23-6677)へ。
里山里海活動の価値
台湾での国際フォーラムに参加して
齊藤陽子(樹木医)
(房日寄稿2019.5.18)‥⇒印刷用PDF
4月18日から23日にかけて、台湾で「地景の永続的発展のための国際フォーラムが開催されました。この会議で安房からは、安馬谷里山研究会の横山全宏さんが招かれて発表されました。なぜ国際会議に安房の里山活動なのか、まずはご紹介します。
地景の永続的発展のための国際フォーラムとは
景色や土地の持続可能な開発・発展を議論する場として、ドイツやベトナム、日本から300人ほどの参加がありました。日本からは秋吉台や伊豆など6つのジオパーク(地球や大地の公園)の方々が、ブースを設けて紹介をしていました。
主催は台湾の地理学会、ジオパーク協会、国立公園協会。課題は地景の持続可能な開発、ジオパークや国立公園のあかた、里山の新しい取り組みでした。台湾でこのように関係機関が連携して、多岐にわたる分野のバランスの取れた自然保護と開発が検討されるのは画期的なことのようでした。
安馬谷里山研究会からの発表の経緯
数ある日本の取り組みの中で、地元研究会が招待されたのは台湾国立高夫師範大学地理学系の劉(りゅう)淑惠教授とのご縁からでした。劉教授は2016年5月に開催された第13回里山シンポジウムin南房総に参加され発表され、この地の里山活動にも熟知されています。
里山里海活動の現在的価値
現在の喫緊の課題は、地球温暖化防止のための取り組みです。世界目標は2015年に凍結されたパリ協定の枠組みにおける温室効果ガスの削減です。それには炭酸ガスを吸収する森林の活用が大切です。
また2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(エス・ディー・ジーズ、世界を変えるための17の目標)では、13気候変動に具体的な対策を14海の豊かさを15山の豊かさも——と挙げ、持続可能な世界を実現するため、地球上の誰1一として取り残さない取り組みを誓っています。
この国際的な課題に私たちの足下で取り組んできたのが「研究会」です。同会は平成15年に千葉県里山条例が制定されたことに伴い、南房総市との協働で8月に設立。3・5ヘクタールの雑木林を切り開き、桜や椿などを植樹してきました。この場所は市民の森林セラピーの場所として活用され、里山ハイキング、里山保育などが行われています。代表の横山さんは、里山を案内するときには必ず海の見える所に案内するそうです。整備した山から注ぐ鉄分を含んだ有機物が海のプランクトンを育て、生物多様性を実現していることを実感してもらうためです。
フォーラムで横山さんは「自分は84歳ですが、48歳のつもりで発表します」と笑いをさそって口火を切りました。同会も参加して2018年5月には南房総里海連絡会を組織したとして、大房岬自然の家、「きらり」じょうやまの会、大貫古道の会、高塚山望活クラブ、和田浦くじら食文化研究会、大山千枚田の活動について映像を交えて報告され、世界の参加者と里山里海活動の価値を共有する時間となりました。
外から評価されて、足下の価値に気が付くことがあります。地元の方たちが長年行政と共働してボランティアで取り組んできたこのことに、私たち市民も物心両面で支援することも、SDGsへの取り組みの一環になると考えました。
(樹木医)
‥⇒印刷用PDF
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NPOだよりNo.88-1
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NPOだよりNo.88-2
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NPOだよりNo.88-3
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NPOだよりNo.88-4
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布良の海を愛した画家たち展〜青木繁・寺崎武男・倉田白羊
(東京新聞2019.4.26付)
4月27日〜5月6日、10時半〜15時、旧館山市立富崎小(JR館山駅からバス)。
美しい景観から「美術界の聖地」と呼ばれた漁村・同市布良で創作活動をしていた画家3人の作品を一堂に展示。写真は、寺崎武男の屏風絵「平和来たる春の女神」。無料。
安房文化遺産フォーラム=電090(6479)3498
閉校した小学校で美術展 館山
(NHKニュース2019.4.30)
館山市で、閉校になった小学校の校舎を会場に、地域ゆかりの画家たちの作品を集めた美術展が開かれています。
「布良の海を愛した画家たち展」と題したこの美術展は、地元で活動する「青木繁《海の幸》誕生の家と記念碑を保存する会」が、おととし閉校になった旧富崎小学校の校舎を活用して初めて開きました。
会場には、明治から昭和にかけて活躍した地域ゆかりの3人の画家、青木繁と寺崎武男、それに倉田白羊の作品に加え、地元の子どもたちが描いた模写絵など合わせて100点余りが展示されています。
このうち「平和来たる春の女神」は、寺崎が昭和21年春に完成させたびょうぶ絵の実物で、遺族から「保存する会」に寄贈されたものです。
訪れた人たちは、房総の神話が描かれた作品などを一つ一つ、じっくりと鑑賞していました。
主催した団体の会長を務める島田博信さん(85)は「偉い画家の絵というのはなかなか見てもらう機会がないので、できるだけ多くの人に鑑賞してもらいたい」と話していました。
この美術展は来月6日まで開かれています。
廃校に名画ずらり〜安房ゆかりの画家展
(千葉日報2019.5.4付)…⇒印刷用PDF
安房ゆかりの名画や資料を集めた「海とアートの学校まるごと美術館」が館山市の旧市立富崎小学校で開かれている。「海の幸」で知られている青木繁や自由画教育に尽力した倉田白羊、寺崎武男らが描いた作品100点以上を展示。6日まで。
イベントは、2017年に閉校した同行を地域活性化に生かそうと初めて企画。同市富崎地区の布良は風光明媚(めいび)な景観が多く、多くの画家が訪れたことから「美術界の聖地」として親しまれている。
会場には、青木繁が友人らと布良を訪れた際に描いた国重要文化財「海の幸」の複製画や、大正期に同校などで自由画教育に尽力した倉田白羊の襖(ふすま)絵など力作が並ぶ。現在の県立安房高等学校で美術指導を務めた寺崎武男のエッチング画を拡大した巨大緞帳もあり、様々な画家の多様な作風が楽しめる。
校舎には絵画のほか、富崎地区の歴史を伝える資料や漁具を展示。主催する「青木繁《海の幸》誕生の家と記念碑を保存する会」の島田博信会長(85)は「この地に立派な画家がいたという歴史を知ってほしい。幅広い世代に見てもらえたら」と話している。
毎日午後1時半からは紙芝居や歌などのイベントを実施。午前10時半〜午後3時。入場無料。問い合わせはNPO法人安房文化遺産フォーラムの池田さん。TEL090(6479)3498。