映画『赤い鯨と白い蛇』
戦後60年を機に、南房総・館山を舞台にした映画『赤い鯨と白い蛇』が誕生しました。「赤い鯨」は軍都だった館山の沖で訓練をくりかえす特殊潜航艇(特攻の潜水艦)を意味し、「白い蛇」は家の守り神を象徴しています。
戦時中の館山で安房高等女学校(安房南高校)の学生だったせんぼんよしこ監督が、女性の目線から平和と命を描いた美しい作品です。戦時中館山に疎開していたという設定の香川京子さんをはじめ、世代の異なる5人の女性たちが、人と人との絆が薄れつつある現代社会のなかで、「自分に正直に生きる」ことの難しさと大切さを伝えてくれています。何度も鑑賞するたびに、新鮮な気づきと感動がある、味わい深い作品です。
「少女時代に体験した戦争が何だったのか、本当のことを知りたい」
せんぼん監督が、館山の戦争遺跡の調査研究をしていた私たちのもとを訪ねてこられたのは2002年でした。調査資料をお見せしながら館山の担った戦争の役割についてお話し、戦争遺跡をご案内しました。監督自身も「女学生の当時は知らなかった」と驚いた館山の歴史が、映画のシナリオやロケ地選定に活かされ、美しい館山の自然とともに素晴らしい映画が誕生しました。
館山市では、戦争遺跡を歴史遺産と位置づけて保存と活用に努め、歴史学習や平和学習に活かしています。21世紀に入り、ほとんどの親たちは戦争体験のない世代になりました。そのもとで育った子どもたちに、「戦争や平和」をどのように語り継いでいったらよいかが今問われています。せんぼん監督がこめたメッセージを受け止め、この素晴らしい映画を多くの皆さんと分かち合えたら幸いです。
モントリオール国際映画祭にも出品され、数々の賞も受け、聖路加病院の日野原重明院長も著書のなかで絶賛するなど、多くの人の共感を得ています。すでに、この映画を観て感動した全国のファンから、ロケ地めぐりを希望する声が届いています。洲崎灯台を中心とした豊かな自然や、エンディングを飾る「やわたんまち」(八幡祭礼)など、館山のもつ特性や魅力をスクリーンいっぱいに映し出すこの映画は、館山を全国に紹介するPR作品といえるでしょう。観光協会や商工会議所の皆さんとも広く手を携え、この映画を通じて、シネマ・ツーリズムを活かしたまちづくりを推進していきたいと願っています。
愛沢伸雄(NPO法人安房文化遺産フォーラム代表)
▶ 『赤い鯨と白い蛇』へのメッセージ
・伊東万里子(人形劇団「貝の火」主宰)
・橋本芳久(安房平和の美術展 事務局長)
・川上和宏(千葉大学教育学部)
▶ 房日新聞 展望台 2015.9.2 「赤い鯨と白い蛇」再上映