【東京新聞】240425_「安房大神宮の森」守り育み次世代へ

(東京新聞 2024.4.25付)

森は先人からの預かりもの

「安房大神宮の森」を守り、育み、次世代へ

NPO法人・高田さんがプロジェクト

 

縄文時代からの先人に学び、山と人が永続的に付き合うモデルの森にしよう-。自然環境の再生に取り組むNPO法人「地球守(ちきゅうもり)」の高田宏臣さん(54)=千葉市若葉区=が、安房神社(館山市大神宮)の周辺に広がる森で「安房大神宮の森コモンプロジェクト」を始めた。同志を募りながら古道や水場、集落を再生し、次世代に手渡す取り組み。土地に合った再生に向けて地域の歴史などを学ぶ連続講座も開催。第1回が27日、オンラインで開かれる。(山本哲正)

 

高田さんは2019年の房総半島台風で荒れた沖ノ島(館山市)の再生を指導し、21年に「館山森づくり大使」に任命されている。昨年夏、大神宮の森に風力発電開発業者による土地買収の動きがあると聞きつけると、森を守るために賛同者と株式会社を設立。今年1月にこの土地約55ヘクタールを取得した。「購入はしたが、所有する考えはない」と高田さん。「預かり、育み、未来に手渡す。『いっときの預かりもの』です」
 山林は、館山市と南房総市の境に広がり、国道410号が整備されるまで住民に使われたとみられる無数の山道があったことが、地元のNPO法人「安房文化遺産フォーラム」の調査で分かっている。山奥には水場が点在し、田んぼも入り組んでいた。江戸期までは、安房神社に仕えた百数十人が自給自足の生活をしていたとみられる。かつての山道や水場を再生していくことは、地域の災害対策としても期待される。豊かな山となれば、栄養分が運ばれる海も豊かになる。
 「近年、全国で山の荒廃が目立つが、大神宮の森は歩くたびに山の神気に打たれ、これほどの山河が残っていることに感動する。どう現代に生かし、守りつなぐか。風土の豊かさを取り戻した『世界的モデル』となるよう進めていきたい」と高田さんは語る。
 連続講座は、同フォーラムと協働で企画した。安房の歴史文化を学ぶほか、プロジェクトの進み具合も報告していく。初回は27日午前10時~正午。定員500人。無料だが、整備に役立てる千円~5千円の寄付付きチケットもある。申し込み専用フォームを、安房文化遺産フォーラムのホームページで案内している。問い合わせは、同フォーラム共同代表の池田恵美子さんへ。
⇒【第1回安房大神宮の森 風土・歴史フォーラム】詳細はこちら。

◆ 活動拠点は「縄文小屋」 大地に戻っていく材料で 鳥獣の暮らしにも配慮

カンカン、シャッシャッ-。のみを入れる音、木の皮を鎌で剝ぐ音が、大神宮の森に響いた。23日は、石斧(せきふ)で丸木舟などを作る「縄文大工」の雨宮国広さん(55)=山梨県甲州市=を講師に招き、活動拠点ともなる縄文小屋を建てる準備を有志約30人で進めた。22日に用地を切り開くところから始め、26日までに1棟を仕上げる。
 雨宮さんが石川県能登町の国史跡「真脇遺跡」で手がけた縄文小屋は能登半島地震でも無傷だった。遊びのある造りが免震を果たしているのも特徴だ。
 自然との付き合い方を体得していた先人に学ぶのがコモンプロジェクトのコンセプト。高田さんは「古道には泥水が周囲に流れて荒れることのないよう石を差し込んだ跡があった。建物も同じで泥水対策をする。その土地にあり、そこの土、大地に戻っていく材料で造る。土地を荒らさずに暮らす環境を整え、次世代に渡すのが本来の在り方」と強調する。
 イノシシなど野生鳥獣との付き合い方も工夫する。「獣道を壊すと、私たちの作る物も動物たちがどこか壊していく。逆に通りやすくしてやれば、ほかを壊さない」
 隣にいた雨宮さんが「すべての生き物が幸せになるものづくり。志が同じだ」とほほ笑んだ。