【東京】250929_海を渡った漁師、千葉・和歌山・米国で共同調査
「房総アワビ移民」の歴史知って
ひ孫ら来日 曾祖父も見た海「感じるものあった」
19世紀末に千葉県の南房総から米国カリフォルニアへ渡った「房総アワビ移民」の歴史に光を当てる調査が、日米共同で進んでいる。渡米したアワビ漁師たちの功績を発信する県内のNPO、多くの移民を送った和歌山県の研究者、移民の子孫が連携。それぞれの関係者らは8月末~今月、県南部で交流を深めた。共同調査の成果は来年2月、館山市などで発表される予定だ。(長屋文太)
「曽祖父も同じ海を見ていたと思うと、感じるものがあった」。館山市内のカフェで今月3日、NPO法人安房文化遺産フォーラム(同市)が開いた懇親会。共同調査のために来日した全米日系人博物館(ロサンゼルス)の職員エバン・コダニさん(36)が英語で感想を語った。
共同調査は、文化庁が支援する「和歌山移民研究を軸とした国際交流事業」の一環。渡米画家を研究する和歌山県立近代美術館と、漁業関係の移民らを送り出した同県太地(たいじ)町などが2022年度に始めた。全米日系人博物館は24年度から参加。フォーラムは本年度から研究に加わった。
日系4世のコダニさんの曽祖父は、南房総市白浜町出身の小谷(こだに)源之助(1867~1930年)。弟の仲治郎(なかじろう)(1872~1943年)とともに「房総アワビ移民」のリーダーとして1897年、カリフォルニア州モントレーに渡った。米国の海に適したアワビの漁法を確立。アワビの缶詰工場を建設し、アワビステーキを紹介するなど、現地の食文化の発展に貢献した。
源之助は、モントレー日本人会の会長として、文化振興や交流事業にも取り組んだ。日本の文化人ら向けにゲストハウスを開き、画家の竹久夢二や政治家の尾崎行雄らが滞在した。
安房文化遺産フォーラムは、こうした歴史を広めようと活動している。愛沢伸雄共同代表(73)は「複眼的な視点で太平洋を通じた交流の歴史を明らかにできる」と共同調査に期待する。「小谷兄弟の歴史は地域で知られていないままだった。コダニさんらが今、アメリカから来てくれたことは大きな意義がある」と喜んだ。
8月31日~今月3日、和歌山と米国の関係者が館山市と南房総市に滞在した。小谷家の墓参りや、戦争遺跡巡りなどを通じ、地元住民とも交流。日系4世で全米日系人博物館の職員クリステン・ハヤシさん(43)は「米国では、日系人が来てから何をしたかという研究に偏っていた。日本側の視点を取り入れられることがうれしい」と話す。
ハヤシさんは「日系人はイノベーションを生み、アメリカ社会の一部をつくってきた存在だが、現地で十分に知られてない」と指摘する。移住当初から排斥運動に遭い、戦時中は強制収容所に送られた史実もある。「いとも簡単に民主主義が崩れてしまうことを示している。そうした歴史を学び、未来をつくる責任がある」と力説する。
共同調査の一行は今月、和歌山も訪問。10月にモントレーとロサンゼルスで、歴史家や日系人の子孫と交流する。来年2月5~18日に南総文化ホール(館山市北条)で調査成果を発表するパネル展を、同11日にシンポジウムを開く予定だ。
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懇親会で交流を深めた安房文化遺産フォーラムの会員と和歌山、米国の研究者ら=館山市船形で
小谷源之助 小谷仲治郎(安房文化遺産フォーラム提供)
房総の移民の歴史に耳を傾ける、いずれも日系4世のクリステン・ハヤシさん(右)とエバン・コダニさん=館山市船形で