【東京】250807_芽吹くサイカチ

芽吹くサイカチに励まし、励まされ
台風で倒れ6年、今年も緑の葉
館山の住民ら「天然記念物に再指定を」

(東京新聞 千葉版 2025.8.7.付)

千葉県の館山市図書館(同市北条)に近い十字路の塀際に、1本の古木がある。「六軒町のサイカチの木」と呼ばれ、樹高約8メートルで元禄地震(1703年)の折には住民がよじ登って津波から救われたという逸話が残る。2019年の房総半島台風で倒れたが、翌20年春には緑の若葉をつけ、命をつないでいることが分かった。芽吹きは続き、今年も「生きてる」姿を見せている。(山本哲正)

◆地域救った伝承

NPO法人安房文化遺産フォーラムによると、サイカチは発音が「再勝」に通じて縁起の良い木として大切にされた。いざという時には葉が食用、実が洗剤、とげが解毒剤になって暮らしに役立つとされる。
六軒町のサイカチは、地域の人々を救ったという伝承でも地元で親しまれ、市は14年に天然記念物に指定。だが、房総半島台風で倒れた後の20年3月、指定は解除された。地域住民らでつくる「サイカチの木を守る会」は、再指定を求めている。
市生涯学習課の担当者は「市文化財審議会で、状況を見つつ協議を重ねている段階だ」と話す。
樹木医の斉藤陽子さんによると、幹は倒れながらも残っていた従来の根があった上、23年には新たな根も確認。会では土のうで囲い、その根を守ってきた。「立ち上がる枝も太くなり、花が咲き、実をつけるようになった」という。

◆まだ生きるよと

斉藤さんは「倒れた時には、もう駄目かと思ったが、サイカチは『まだまだ生きるよ』と言ってくれた。励まされて、守る会で見守り、できるだけのことをしてきた。災害を目に見える形で記録する木として、長く保存できるとうれしい」と天然記念物の再指定を期待している。
接ぎ木により原木の遺伝子を継いだ苗木も複数、育っている。来年2月には、その若木の根を原木に根接ぎし、根を増やしてさらに丈夫にする計画だ。