【房日連載】250501_『世界一の夕陽』(26)大神宮の森

『世界一の夕陽と生きる』撮影現場から (26)

(房日新聞 2025.5.1.付)

大神宮の森

富崎地区の東側に広大な森がある。大神宮の森と呼ばれ、この地域の暮らしを支え続けてきた。

森は人や動物を生かし、その養分を川から海へと注ぐ。海の生物もまた、森の恩恵を受けている。そして、海は水蒸気を放出し、その水分が雨となって森や大地を潤す。地球はそういう循環を繰り返し、45億年生き続けてきた。

豊かな森から豊かな海が育つ。今回の映画で取材した布良漁港の最長老、小谷康彦さんは言った。

「大きな魚の餌になるイワシが取れなくなった。前は沖へ出れば、海いっぱいにワラサとかが跳ねていた。だが、最近は温暖化で、ほとんどそういう魚がいなくなった」

本当に温暖化だけの問題なのであろうか? 大神宮の森が枯れているという。そこで、この広大な森を買い取り、後世に残すためのプロジェクト「安房大神宮の森コモンプロジェクト」が立ち上がった。NPO法人「地球守」代表理事の高田宏臣さんが中心となり、大神宮の森を再生させる一大プロジェクトだ。

高田さんたちが、大神宮の森深く入り、道を直し、よどんだ空気を通すために、木を刈り、森に命を吹き込む。最初に案内してくれたのは、道の側面にある岩盤の穴だった。それは、時間の経過で土に埋もれ、素人の私には、そんなところに大事な穴があるなどわからない。

それをいとも簡単に高田さんは見つける。直径1㍍を超える穴だ。「これは昔の水源。この岩を掘ると水が湧いてくる」。なんと、岩盤をくりぬき、そこから水が湧いて、棚田に水を供給したという。それも鎌倉時代。私は大変驚いた。岩から水が湧き出る? そんなことがあるのか?

高田さんは言う。「ただ水を取るだけではなく、山の保水力を高める」と。私は、目からうろこ状態になった。森の中で育つ木々が生きているのは分かるが、岩も生きているのか?

「鎌倉にある海蔵寺の『十六ノ井』という弘法大師が掘った井戸は、今も湧き出ているんです」。高田さんはそう言って、これが昔の人たちが、知恵を駆使して森に生き、森を育ててきたと話し、さらに山を登り始めた。

この続きは次回に詳しく書きたい。

実は、ようやく映画の完成が近づいてきた。撮影が終わり、あとは仕上げを残すこととなった。そして、試写会が決まった。6月8日(日)に館山市の南総文化ホール小ホール。6月28日(土)に房南小学校体育館。詳細は文末の映画公式サイトを参照ください。なお、小谷さんは、3月に不慮の事故で逝去された。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

(映画のホームページはhttps://www.sekaiichinoyuuhi.com/

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4月17日付の当コーナーで、赤山地下壕を取材できなかった代わりに案内してもらった場所を「大坊崎」と書きましたが、正しくは「大房岬」です。執筆の際の変換ミスです。申し訳ありません。