館山市図書館について

(千葉県歴史教育者ニュース No.576-2023.12発行)

関 和美(NPO法人安房文化遺産フォーラム)

1.はじめに
私は過去2回、館山市図書館をはじめとした安房地域の図書館について講演をしている。そのとき、

「“館山海軍航空隊の兵隊さん達のために”図書館を設置した」という私の報告に興味を持った参加者がいた。以前もこの点に関して、「ほかに事例を聞いたことがない」という指摘を受けたことがあったため、この件に関して調査をしてみようと考えた。

2.『千葉県図書館史』と図書館を取り巻く状況について
これまで私が調査に使用した資料は『千葉県図書館史』(1968)であった。収録されている各館史は記載内容が統一されておらず、各館で執筆が行われていたのではないかと推測される。上記の出典は、この中の「館山市立図書館史」であるが、執筆者はわからない。
近年、図書館を取り巻く状況として、国立国会図書館デジタルコレクションの送信サービスが検討されていたが、コロナ禍により一気に進んだといわれ、2022年5月から個人送信サービスが開始された。自宅にいながら論文入手も可能となったため、今回はこのシステムを利用し調査してみた。

3.「館山市図書館」の開設年
『千葉県勢要覧』は、国立国会図書館の所蔵で一番古いものは大正2(1913)年版であった。館山市図書館が開設されたとされる1943(昭和18)年近辺を検索したところ、1948(昭和23)年版に「館山市に図書館が2か所ある」と記載があった。1949(昭和24)年版と1950(昭和25)年版では、図書館名や場所、蔵書数などが具体的に書かれていた。また、現在の館山市域においては、西岬村図書館と北条文庫が記載されていた。
まず、「館山市図書館」というキーワードでは、『千葉県勢要覧』ではヒットしなかった。これは国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索機能が不十分なために起きたと考えられる。
次に、『館山市勢要覧』(1952)は「館山市図書館」でヒットがあり、1943(昭和18)年8月1日開館と書かれていた。『日本図書館総覧』(1952)では「館山図書館」でヒットし、設立は1942(昭和17)年8月とあり、西岬村図書館の記載もあった。
『稿本房総文化史年表』(1956)では、「館山市図書館」「館山図書館」と2つのキーワード検索でそれぞれ見つかった。1942(昭和17)年8月「館山図書館」設立とあり、1956(昭和31)年2月2日に米大使館から「館山市図書館」に書籍の寄贈があったと記載されていた。

4.兵隊さん達のための図書館
今回の調査は、“兵隊さん達のための図書館”についての裏付け資料を探すことが目的であったが、現『千葉県図書館史』の「時局対策通牒と図書館の設置」以上の資料は見つからなかった。
しかし、図書館の開設年に違いが生じていることが分かった。どちらが正しいのかも合わせて、引き続き調査をしていきたい。

5.おわりに
調査にあたり、国立国会図書館デジタルコレクションの利用方法がわかりにくく、図書館員である私でさえ戸惑うことが多かった。情報入手や文献検索として利用者に日ごろから提案している通りに、私自身も「キーワードを変えてみる」ことで様々な資料を発見できた。網羅的に検索をすることの難しさも実感した。この経験は、地域内にとどまらず、図書館業界で発信しても面白いのではないだろうか。
また、調べれば調べるほど様々な異なる説が見つかることもあるが、それこそ調査の醍醐味であるようにも感じる。今後は、調査の手法だけではなく、その面白さというのも発信していきたいと思う。