【千葉日報】190112*『海の幸」残せ 緞帳修復

館山の漁村訪問時に制作、『海の幸』残せ 緞帳修復

青木繁の代表作 佐賀大教員ら

(千葉日報2019.1.12)‥⇒印刷用PDF

福岡県久留米市の市民会館の解体に伴い、同市出身の洋画家、青木繁(1882〜1911年)の代表作「海の幸」を模した緞帳(どんちょう)が廃棄されることになり、惜しんだ遺族らが一部引き取り、佐賀大芸術地域デザイン学部が修復作業をしている。「地域に溶け込んだ作品への思いを大切にしたい」と3月に作業を公開、訪れた人に手伝ってもらう。

「海の幸」は青木が館山氏の漁村を訪れた際に制作され、もりを持って歩く漁師の一軍が描かれている。

市民会館は1969年に開館。京都の綴錦織(つづれにしきおり)業者が約200種類の意図を使って制作した縦7.4メートル、横19.5メートルの緞帳が設置された。青木繁の孫で、東京で九州郷土料理店を営む松永洋子さん(74)は、父親で作曲家の故福田蘭童さんが「そのまま再現されている。こんなに素晴らしいものは見たことがない」と興奮していたのを覚えている。

市は老朽化を理由に2017年に市民会館の解体を開始。緞帳を別の施設に展示することも検討されたが、サイズが合わないなどの理由で断念。動きを知った松永さんが、画廊関係者らの協力を得て市と交渉し、祖母にあたる故福田たねさんがモデルとされる女性の顔の部分(縦3.1メートル、横5.6メートル)を切り取り、引き取った。

東日本大震災などで文化財レスキューに携わった佐賀大芸術地域デザイン学部の石井美恵准教授と一部の学生が17年12月から修復に向けた作業に取り掛かった。ダニを駆除するため薬剤を含む袋に入れ、数ヶ月間放置。掃除機で死骸やほこりを吸い取り、切り取った際に出来たほつれ箇所や縫い方の技法を調べた。

2年の吉川千夏さん(20)は「大変な作業だが、実践的で貴重な経験」と充実した様子。石井准教授は「織物としても素晴らしい。学生の勉強にもなっている」と語り、昨年11月に見学した松永さんは「多くの人とのご縁で今がある。何回見ても胸がいっぱいになる」と感謝を述べる。

修復作業は3月24日から31日まで佐賀大美術館で公開され、ほつれの縫い合わせを手伝ってもらう。松永さんは参加者らの意見も踏まえ、保存場所を検討する方針。