【毎日】250816_戦争遺跡を後世に 館山のNPOツアーガイド

「戦争遺跡」を後世に
館山のNPOがツアーガイド
調査や保護活動、草刈りも

(毎日新聞 2025.8.16.付)

戦争経験者が年々減り、当時を知る手がかりになる戦争遺跡の重要性が高まっている。だがどこにどんなものがあるかわかりにくく、私有地の中にあって訪ねることが難しい遺跡もあるため、保存や継承が課題だ。そんな中、館山市に事務局を置くNPO法人「安房文化遺産フォーラム」は、地元の戦争遺跡の調査や保護活動に取り組み、現地を案内するツアーガイドもしながら、後世に伝えていこうとしている。【岩崎信道】8月4日、歴史教育に関わる教員や研究者らの団体のメンバー15人が全国から館山市に集まり、市内の戦争遺跡を見学するフォーラムのツアーに参加した。一行は航空機を敵の攻撃から守るための格納庫・掩体壕(えんたいごう)や、本土決戦の抵抗拠点として建設された地下壕の「128高地」などを巡った。

 総延長が1・6キロあり、中に発電所や治療所の跡も残る館山海軍航空隊赤山地下壕では、参加者は規模の大きさに圧倒されていた。爆薬を使わず、すべてツルハシなどで掘られたという説明に、参加者から「ええっ!」と驚きの声があがった。

フォーラムの共同代表、池田恵美子さん(64)が「凝灰岩質砂岩」という掘りやすく、崩れにくい地質を運んで掘っていました。80年以上たっても崩れていません」と解説すると、参加者は壕の壁や天井に目を向け、写真を撮るなどしていた。

見学の間に約1時間の座学もあった。赤山地下壕には戦後、旧日本陸軍で最近兵器開発をした731部隊にいた男性が住んでいたことや、1945年9月3日から4日間、館山市内は日本で唯一直接軍勢が敷かれた史実などが紹介された。メモを取る人もいた。

ツアーに参加した1人で、北海道で大学講師などを務める平井敦子さん(63)は「こうした遺跡をのこしていこうという市民がいて、後世に伝えていこうとする取り組みが素晴らしい」と語った。

フォーラムは赤山地下壕の一般公開が始まった2024年、地域にある歴史、文化遺産の調査研究やガイド事業をしていこうと、NPO法人として設立された。代表は元高校教師で、1989年から市内遺跡の調査を続けてきた愛沢伸雄さん(73)だ。赤山地下壕についても自身の調査結果を市に提供し、05年の市の史跡指定につなげた。

調査や研究だけでなく、遺跡周辺の草刈りをして土地所有者の理解を得るなどし、ツアーを続けている。ただ128高地は劣化が進み、フォーラムの池田さんは「団体で入れるのは今回が最後になるかもしれない」と話す。戦後80年でそうした難しさも出てきたが、これからも地域の遺跡を伝える活動を続けていくつもりだ。

フォーラムは戦争遺跡だけでなく、参加者の要望に合わせた史跡ガイドをしており、小説「南総里見八犬伝」で知られる里見氏ゆかりの地を巡るコースなどもある。問い合わせは同フォーラム、電話(0470・22・8271)かEメール(awabunka@awa.jp)。