【房日連載】250626_「世界一の夕陽」㉚~おらがごつつお

『世界一の夕陽と生きる』

撮影現場から㉚

(房日新聞 2025.6.26.付)

残さなければならないもの②

残さなければならないものがもう一つあった。ただし、これも映画の中では扱えなかった。人間が生きていく中で必要な「衣食住」の一つ、「食」である。

どの地方にも「わが町のごちそう」があるはずである。NPO法人安房文化遺産フォーラムが編さんした小冊子「おらがごっつお富崎―わが家のごちそう―」がある。黄色い地に黒い文字が目立つ。中を広げると巻頭にこう書かれている。

「このレシピ集は、国土交通省の『新たな公』によるコミュニティ創生支援モデル事業の一環として、富崎地区の皆さんといっしょに漁村の食文化『おらがごっつお(わが家のご馳走)』を調査し、まとめたものです」

目次は、ご飯レシピ、汁物レシピ、畑のレシピ、海のレシピ、おやつ・飲み物レシピに分かれている。総数65品目。その中でも海のレシピが圧倒的に多い。さすがに「漁村の食文化」と書かれているので納得する。「ご飯のレシピ」から、いくつか紹介する。

①かんまぜ(ちらしずし)=祝儀・不祝儀によって材料が異なると書かれているので、そういう行事ごとに作られたものだと思う。サザエやトコブシを薄く切り入れるとある。干しシイタケを戻したものなどと混ぜる。サザエやトコブシといった貝というのが、この地域の特徴を出している。かんまぜは、かき混ぜるの方言だという。

②まごちゃ=アジやイッチョコのたたきやなめろうをご飯の上にのせ、しょうゆをかけてお湯を注ぐ。魚のお茶づけのようなものだ。イッチョコはイサキの子の呼び名だという。

③シノベ竹の赤飯=シノベ竹を混ぜた赤飯だ。そういえば、南房総には、このシノベ竹(八竹の別名)が多く生えている。集落支援員の鈴木隆史さんは、自分の家の裏庭を整理するのに、シノベ竹を刈り取る作業で大変苦労をされていた。だが、食料になるとは知らなかった。

④ダイコンの落花生なます=千葉県といえば、やっぱり落花生だ。落花生を使った料理がいくつもある。撮影中に映画の挿入歌を歌ってくれたバンドbeeeの稲の収穫に行った際、皆がおにぎりを持ち寄っていた。その中に落花生の入ったおにぎりがあった。私の頭の中にはこの発想はなかったので驚いたが、味は実においしかった。

こうした食文化は、いつまでも大切に伝えてほしいと思う。

さて、余談になるが、去る6月8日に初めての試写会を南総文化ホール小ホールで行った。定員300人の席が3回とも満席になった。うれしい限りだが、こちらの不手際で入れなかった人たちが出てしまった。この場を借りて謝罪いたします。

試写会は、6月28日(土)にも房南小学校体育館で開催する。ホールと違って椅子の座り心地は今一つと思われるので、座布団や上履きスリッパなどを持参されるといいかもしれない。また、飲み物の準備など万全の熱中症対策もお願いしたい。