【房日寄稿①】250409_大神宮の森への想い

安房大神宮の森への想い

千葉市・高田宏臣

(房日新聞 2025.4.9.付)

現代社会は便利さを追求するあまり、自然の恵みと直結した自給的な暮らしから遠く離れ、土地の開発や地形の改変は奥山にも及ぶようになりました。とくにメガソーラーや風力発電などの設備開発が次々と進み、生命の源泉が破壊され、あるいは土砂災害が起きる要因となっている現状に心を痛めています。

そうした開発から安房神社の御神域である豊かな森を守るために、「安房大神宮の森コモンプロジェクト」を立ち上げました。コモンとは共有財産を意味します。自然豊かな森は、長いこと人の手が入らず、台風で荒れたままの状態でしたが、山中には古道や段々畑、集落の痕跡を見ることができます。

私は仲間とともに融資を受けて55ヘクタールの森を購入しましたが、「所有」という考えはありません。「いっとき預かり、育み、そして未来に手渡す」という思いで、古道や水場、段々畑を再生し、豊かな営みを取り戻すための取り組みを進めています。

作業にあたり、土中環境を傷めない視点を大事にしています。石や木の根の活(い)かし、ワラや落ち葉など自然の有機物を使って施工し、土中の水脈を守り、すべての生きものにやさしい伝統的な工法を「有機土木」と呼び、提唱してきました。

山河はいのちの源です。森が蓄えた水は無数の谷津田(やつだ)を潤し、集落の暮らしを支え、豊かな漁場を育んできたのです。しかし近年は磯枯れが深刻となり、マグロはえ縄漁で栄えた布良漁港も、今や魚影が消え、漁業者が激減しています。有機土木の工法を駆使して安房大神宮の森を再生することは、豊かな海を取り戻すことにつながると期待しています。

災害と土中環境

造園業を営んできた私は、東日本大震災を機に、これまで積み重ねてきた土木実務を見直しました。傷んだ自然環境の再生と、土地を傷めない環境造作、土木工法の実証と指導、普及に取り組んできました。毎年広域化する風水害の被災地や土砂災害地にも足を運び、周辺環境から災害の発生要因を調べています。

令和元年房総半島台風で安房地域は壊滅的な被害を受けました。中でも、歩いて渡れる無人島の「沖ノ島」(館山市)は、次世代へ受け継がれるべき森の未来が危ぶまれる状況でした。ここで活動するNPO法人たてやま・海辺の鑑定団の要請を受けて、翌年より環境再生の指導をおこないました。それが縁で、館山市森づくり大使を拝命しました。

令和6年元日、私は家族とともに滞在していた石川県の和倉温泉で、能登半島地震に遭遇し、避難所で一夜を過ごしました。能登の美しい自然や暮らしが一変した様子を目の当たりにし、その後も数十回にわたり調査・支援活動に訪問しました。

東北や能登らしい地域らしい復興を考え、政策から環境・風土をどう守るか、という提言を発信してきました。それらの報告は、YouTube「地球守ラジオ」でご視聴いただくことができます。

縄文小屋にみる古代の知恵

石川県の真脇遺跡(国指定史跡)には、縄文時代の道具によって復元された縄文小屋があります。幅5メートル、奥行き6メートル、高さ3・5メートルの小屋を13本の柱で支えています。この縄文小屋は、震度6の能登半島地震で倒壊しませんでした。ほぞつき角材で木材を組み合わせ、カラムシの繊維やフジの皮からつくった縄で固定しただけですが、古代の知恵や技術は地震に強い免振構造だったことが証明されました。しかも板葺(ぶ)きの屋根に積んであった石も落ちなかったことに、私は感銘を受けました。

これをつくったのは元宮大工の棟梁(とうりょう)で、縄文大工のJOMONさんこと雨宮国広さんです。安房大神宮の森でもご指導いただき、延べ200名の参加者とともに1棟の縄文小屋を建てました。ここを拠点にしながら縄文集落をつくり、さまざまな活動を進めていきたいと思っています。

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安房大神宮の森では、まず古道の再生普請から始めていて、多くの人たちと作業プロセスの体感を共有しています。古道を歩き、風土の豊かさを取り戻す過程で、人として、生き物としての大切なありさまに気づき、それが現代の閉塞(へいそく)感を乗り越えて、心身の健康を取り戻し、未来の希望につながることを期待しています。隔月ごとに数日の作業ですが、多くの方の参加や支援をお待ちしています。

(安房大神宮の森コモンプロジェクト代表)

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