平和の文化に関する宣言

 (1997年11月20日国連総会決議52/13採択)

国連総会は、

国連憲章が「われら連合国の人民は、…戦争の惨害から将来の世代を救い、…基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、…一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、…寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互いに生活すること…を決意して」と宣言していることを想起し、

ユネスコ憲章が「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と言っていることを想起し、

また、世界人権宣言並びに国連及びユネスコによる国際的な諸措置を想起し、

冷戦の終焉が、国際の平和や安全と、国際間及び国内における人権と民主主義の原則の尊重とに新たな展望を切り開いたことを認識し、

にもかかわらず、世界の各地で暴力と武力紛争がやまず、増えてさえいることに深い憂慮を表明し、

平和とは、ただ単に紛争がないという状態ではなく、民主主義の原則とすべての人びとの発展に本質的に結びついた積極的かつダイナミックな参加の過程であり、その過程を通して異なるものが尊重され、対話が奨励され、紛争が常に非暴力的な方法によって新しい理解と協力に転換されるものであることを考慮し、

戦争をなくすには、戦争の制度化された構造や現象だけでなく、その深い文化的根元をも変革する必要があることを考慮して、

各国の政府、行政機関、教育・文化その他の諸機関、非政府組織(NGO)そして市民社会全体が、それぞれの活動の中で、常にこの宣言に盛られた規定に基づいて行動し、新しい千年紀にあたって、「戦争と暴力の文化」から「平和と非暴力の文化」へと早急に移行するための地球規模の運動が展開されるよう願い、ここに「平和の文化に関する宣言」を厳粛に公布する。

平和の文化の意味と意義

第1条 平和の文化とは、以下の諸項目を反映し鼓吹する一連の価値観、態度、伝統、行動様式及び生活様式である。

・生命及びすべての人権を尊重すること

・あらゆる形態の暴力を拒否し、常に対話と交渉を通じて紛争の根元をなくそうと努めることによって、暴力的紛争を未然に 防止すること

・現世代と次世代の人びとの開発と環境のニーズを公平に満たす過程に、全員が参画すること

・男女の平等及び機会均等を促進すること

・すべての人びとが、表現、意見、情報の自由を権利として所有していることを認識すること

・自由、正義、民主主義、寛容、連帯、協力、多元主義、文化的多様性の原則を信棒し、異なる国民の間、民族的、宗教的、文化的、その他において異なる集団の間、そして個人の間の対話と理解促進に貢献すること

第2条 平和の文化は、個人、集団及び組織が変容する過程である。それは、人びと自身の信念と行動から生れ、それぞれの国における固有の歴史、社会文化及び経済の状況の中で発展するものである。鍵は、暴力的な競争を価値観と目的の共有に基づく協力へ変容させることにある。特に、紛争当事者が、開発プロセスを含めたすべての段階において共通の利益目的を達成するために、共に働くことが要請される。

第3条 平和の文化は以下の目的を目指すものである。

・価値観、態度及び行動を、平和と非暴力の文化を促進するものへと変容させること

・あらゆるレベルの人びとに対話と調停と合意形成の能力を与えること

・人びとが民主的に参加し、開発プロセスに完全に参画できるよう、彼らの能力を高めることによって、権威主義の構造と搾 取を克服すること

・国内及び国家間における貧困と極端な不平等をなくし、参加型の持続可能な人間開発を促進すること

・女性が政治的、経済的な力を高め、すべての段階の意思決定に平等に参画すること

・情報の自由な流れを支持し、統治の透明性と信頼性、経済的、社会的意思決定の透明性と信頼性を拡大すること

・すべての人びとの間の理解、寛容及び連帯を促進し、それによって文化的多様性を尊重すること。すべての国民は、豊か な伝統と価値を持ち、平和の文化の促進に多大の貢献ができると同時に、それから多くのことを得ることができるのである。

平和の文化を促進するための主要な領域と行動

第4条  平和の文化を構築するには、包括的な教育的、社会的そして市民レベルの行動が必要である。これは、すべての年齢層を対象とした、平和の文化を人びとの心と精神に根づかせるための、地球規模の開かれた戦略である。

第5条  人権及び基本的自由の尊重と擁護を保障する第一義的な責任を有する国家は、市民社会のすべてのパートナーの協力を得て、平和の文化を発展させるための環境と必要な条件を確立する上で、基本的な役割を担うものである。

第6条 教育は平和の文化を構築する主要な手段である。教育のあらゆる側面が、この目的に向けて活用されなければならない。

第7条 民主的原則を促進し、ひとと社会環境の間の調和をはかるためには、市民社会をあげて取り組むことが求められている。

第8条 メディアは、その強力な教育的役割に加えて、意見、表現及び情報の自由の行使を確保する上で、決定的な役割を担って いる。

第9条 人びとの精神に直接的な影響を与えるような活動をする人びとは、主要な役割を担っている。とりわけ、政治指導者、政府、議会その他選挙によって選ばれる人びと教員、ジャーナリスト、知的グループ、家庭、宗教指導者、さまざまなレベルの管理者、そして非政府組織の役割が重要である。彼らの間にパートナーシップが実現すれば、効力は一層大きなものとなる。

第10条 科学、哲学及び創造的活動に従事する人びとは、平和の文化の発展を促進させ、且つ平和の文化を強固にする知識、研究及び芸術の創造の共有を促進させる特別な役割を担っている。

第11条 世界における平和の文化を促進するための国連システムの能力の強化は、現在進行中の国連機構改革の主要な側面を構成するであろう。