【房日講演抄録】100616*矢野学氏-新たな公とは何か-
◎講演抄録(房日新聞2010.6.16付)
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心の過疎をつくらないまちづくり
-新たな公とは何か-
–住民参画の仕組みを導入–
矢野学氏(新潟県上越市議・旧安塚町長)
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雪国の安塚の取り組みを紹介する。合併して21万人の上越市になったが、安塚地区は3300人の中山間地。私は平成17年の合併時の町長だった。合併で「必ず行政サービスは落ちる」と思った。自分たちが元気を出して自前の地域、特色と活力ある地域をつくろうと腐心した。
そのために自分たちでお金も責任も行動もしようと。その仕組みとして「NPO法人・雪のふるさと安塚」という自治組織をつくった。これが「新しい公共」として全国で紹介されることになった。
雪を使った町おこし。また景観をきちっと考えようと、公共施設は木造にしている。ごみの集積所も。行政だけでなく、市民の力もある。花いっぱい運動にも取り組んだ。オリジナルの花をと、ヤナギバヒマワリが全町で100万本咲き誇る。今200万本を目指している。
財団をつくって、雪を利用する研究をした。雪室をつくり夏の冷房に使っている。コメの貯蔵、農産物の保存にも使う。福祉の施設や中学校も雪冷房している。雪1㌧で二酸化炭素30㌔を削減し、石油10㍑を節約できる。雪は邪魔者ではなく、資源になった。現在、世界一の雪の保存量があるのが安塚という地域だ。
棚田の町を売り出そうと、子どもの田舎体験事業に取り組んだ。特徴は民泊ができること。世帯数の2・5割が経験している。今は1億円の産業になった。
新たな自治組織(NPO)には1人年2000円の会費で、世帯数の8割にあたる1167人が加入した。分科会に分かれ、地域をどうするかを考える。最初の理事長は女性。上越市から4000万円の委託を受け、施設の管理も行う。独居老人の見守り、有償ボランティアも引き受ける。
上越市は「協同のまちづくり」の目的で各地域に自治区を制定。地域の意見を取りまとめる「地域協議会」も設けた。各区10-20人の委員は選挙で選び、無報酬。地域をどうするかを考え、市から委託を受けたものを審議する。年2億円の活動資金が市から自治区に配分される。安塚地区には約600万円。何に使うかは協議会で話し合って決める。
館山は合併はなかったが、合併しようとしまいと、新しい公共になるにはどうするか。市民の皆さんの意見をどういう風に行政が聞いて、トップの市長が皆さんに回答し、あるいは意見を求める。そういう仕組みをどうつくるかというのが、自治体の元気のあるかないかで差がつく。
今どちらかというと、館山市はたたずんでいるのではないかと思う。それは、仕組みをつくっていないから。行政に元気がないのか、市民の皆さんにアイデアがないからたたずんでいるのか。
私のように3000の人口でしかないところが、いま交流人口がゼロから50万人になった。雪を売って、町を花でいっぱいにし、棚田でいろいろな子供たちが来て体験をし、ある時には涙を流して帰る。
私どもは、まだ未知のものだが、目指すべき公共、市民のみなさんと情報を共有し、市民の参画を得よう、皆さんからもらった税金を自由に使うために考えていこう、このようなことをたたずまないで前に進もうと、新しい仕組みをつくって実践中だ。
その中で安塚は特にコミュニティがしっかりしているから、経済活動もコミュニティビジネスも生まれてきて、自分たちが自信を持つ自治体像を語れるのではないかと思う。一人一人が考え、実行することが大切だ。
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本稿は、12日に館山市の南総文化ホールで開かれた「まちづくりシンポジウム」のスピーチを要約したものです。