【東京中日スポーツ】090821*旅人の書

◎ 旅人ぶらりの書

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「鏡が浦」の別名を持つ館山湾は、名前通り鏡のように波静かだった。
花も野菜も果物もふんだんに採れる温暖な気候、黒潮に近い豊かな海、
首都防衛の要塞としての歴史、人情あふれる人々…。
久しぶりの南房総で、自分の田舎に帰ったように心落ち着いた。

(中略)

翌日は赤山地下壕跡を訪ねる。明治時代から館山には
首都防衛の目的で多くの砲台が築かれたが、
1930(昭和5)年の館山海軍航空隊設置以後は、
「東京湾要塞」の色彩を濃くしていく。
地下壕は延長1.6キロ。発電所まである。
敗戦と同時に一切の資料が廃棄されたため、
詳しい目的や任務は明らかでないが、
〝本土決戦〟の秘密基地を目指していたことは間違いない。
戦争遺跡として一般公開されたのは5年前。
参観者は年々増加している。
案内役のNPO法人安房文化遺産フォーラムの池田恵美子さんが言った。
「太平洋に向かうと、館山の位置は日本列島の最先端になります。
太平洋戦争について考えるとき、絶対に後世に残さなければいけない史跡なんです」

(後略)