【東京】250901_南海トラフ 1週間の「事前避難」 館山、勝浦両市で1万人超 避難所確保や備蓄に課題
南海トラフ 1週間の「事前避難」 館山、勝浦両市で1万人超 避難所確保や備蓄に課題
発生すれば国内の広い範囲に被害が出る「南海トラフ巨大地震」を巡り、内閣府は8月20日、臨時情報「巨大地震警戒」が出た場合に1週間の事前避難を求める住民数を発表した。千葉県内は館山、勝浦両市で計1万人超に上り、避難所の確保や食料などの備蓄に課題がある。事前避難の仕組みをよく知らない住民も多く、対策は道半ばだ。(長屋文太、中山岳)
巨大地震警戒は、南海トラフ沿いでマグニチュード(M)8以上の地震が発生し、時間を置いて後発の地震が起きる可能性が高い場合に発表される。南海トラフは東海沖~九州沖に広がるとされ、例えば西日本でM8級地震の発生後、東日本で後発地震が起きる恐れもある。早いところで地震から数分で津波が来るため、後発地震のリスクのある地域は事前避難することで被害を抑える狙いがある。
館山市は事前避難の対象に7地区33町内会を指定し、住民は約7100人。その1人、海沿いの同市相浜に住む鈴木瑞江さん(83)は「1週間も避難できるところが思い付かない」と表情を曇らせる。
津波の備えとして、高台の親戚宅に寝袋や水などを置いている。7月30日にカムチャツカ半島沖地震で津波警報が出た時も、この親戚宅に避難。ただ、当日の警報が解除されないうちに帰宅した。相手方の生活も考え、津波が来ない段階で長く滞在するのはためらいがある。避難所となる小中学校は統廃合で減り、公民館も1週間の避難をするには狭いと指摘。支援物資があるかも不安という。
館山の地域史を研究するNPO法人安房文化遺産フォーラムによると、1703年に安房白浜沖で起きた元禄地震による津波で、相浜は86人が犠牲になった記録がある。1923年の関東大震災では相浜に9・33メートルの津波が押し寄せたが、過去の教訓を語り継いできた住民は高台に避難。犠牲者は1人だった。
早めの避難の重要さは多くの人が理解している。一方、南海トラフ地震の事前避難は、同フォーラム会員でもある鈴木さんや他の住民もよく分からないと口をそろえる。
同じく会員の神田守隆さん(76)=同市那古=は「カムチャツカのときのように、避難を呼びかけても被害が出なかったら、信頼を失うのでは」。フォーラム共同代表の池田恵美子さん(64)は「事前避難対象地域は、初めて知った。避難先や避難方法を教えてほしい」と求める。
市危機管理課によると、災害時の指定避難所は小中学校の体育館など29カ所で、収容人数は約2900人。事前避難が現実になれば、約7100人全てを受け入れるのは難しい。市は、小学校の教室なども感染症対策をした上で避難スペースにすることを想定。同課担当者は「安全な地域の親戚、知人宅などに分散避難も呼びかけている」と説明する。臨時情報や事前避難については「周知しきれておらず、国も呼びかけてほしい」と課題を挙げた。
懸念は他にもある。事前避難の対象地域はスーパーや企業などもあり、担当者は「1週間の避難が必要な場合、休業を求めるのか。休業の場合に補償が必要なのかも分からない。1自治体で決められず、県や国が予算措置も含め、統一して判断してほしい」と話す。
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勝浦市の事前避難対象は勝浦、興津両地区の一部地域。高齢者や障害者など、避難に時間のかかる約4300人が対象だ。ただ、市消防防災課の担当者は「1週間どう避難所を運営するか、計画は定まっていないのが実情だ」と話す。
市の備蓄食料は2万5千食分で、避難所で1日2食を提供すれば3日で枯渇するという。避難者や県・企業などの備蓄を供給してもらう計画もあるが、それでも6日ほどでなくなる見込み。「避難生活が長期化すれば、市の備蓄だけでは対応できない」としている。
<南海トラフ地震臨時情報>
南海トラフ沿いで地震が起きた際、さらに巨大地震が発生する可能性が高まったと判断されると、気象庁が発表する。
臨時情報は3種類あり、まず想定震源域内でマグニチュード(M)6.8以上が発生した場合などに「調査中」が出る。その後、専門家の検討を経て、M7以上、M8未満なら「巨大地震注意」、M8以上なら「巨大地震警戒」が発表される。昨年8月8日に宮崎・日向灘沖でM7.1の地震が起きた際、初めて巨大地震注意が発表された。
今年3月に政府の作業部会が発表した南海トラフ巨大地震の新たな被害想定では、県内の最大死者数は1800人。
臨時情報は3種類あり、まず想定震源域内でマグニチュード(M)6.8以上が発生した場合などに「調査中」が出る。その後、専門家の検討を経て、M7以上、M8未満なら「巨大地震注意」、M8以上なら「巨大地震警戒」が発表される。昨年8月8日に宮崎・日向灘沖でM7.1の地震が起きた際、初めて巨大地震注意が発表された。
今年3月に政府の作業部会が発表した南海トラフ巨大地震の新たな被害想定では、県内の最大死者数は1800人。