【東京新聞】250528_寺崎を知り、作品見て平和考えて

<2025年 戦後80年>

「寺崎を知り、作品見て 平和考えて」
「館山に敵入る」城の絵に一筆
“渚の駅”たてやまで企画展

(東京新聞 2025.5.28.付)

千葉県館山市ゆかりの画家・寺崎武男(1883~1967年)が45(昭和20)年9月1日に描き上げた城の絵に、小さく「館山に敵入る」と書かれている。直前の同年8月30日には、米占領軍の先遣隊が館山に上陸していた。作品を所蔵するNPO法人安房文化遺産フォーラムは、この書き込みに注目。“渚(なぎさ)の駅”たてやま(同市館山)で開かれている戦後80年企画展の目玉にした。(山本哲正)

「館山ゆかりの国際画家 寺崎武男 平和の祈り展」は、寺崎の遺族から寄贈を受けた作品を中心に約25点の絵画を展示。寺崎について調査したこともパネルで展示している。
07(明治40)年にイタリアに渡り国際的に活躍した寺崎は、欧州現地で第一次世界大戦を経験。その後、平穏な暮らしを求めて大正期から館山に定住したが、30(昭和5)年、そのすぐ近くに館山海軍航空隊の基地ができ戦雲を間近で感じた。フォーラムは「戦時下の国策として戦意高揚画を描かざるを得なかった一方で、誰より平和を願って、祈りの作品や宗教画を多く描き残した」としている。

城を描いた「天守閣(城)桃山時代」は、会場入り口から見て正面中央にある。実際の館山城は天守閣のない城郭だった。左からお堀を越えて城内に向かう、たいまつを持った集団が米軍か。右下の黒っぽい部分に見えにくい黒い字で「館山に敵入る 昭和廿(にじゅう)年九月一日 寺崎武男」と書いてある。
2日前の8月30日、米占領軍の先遣隊235人が館山に上陸。フォーラム共同代表の愛沢伸雄さんらの調査によると、先遣隊の一部は9月1日にかけて市内で強姦(ごうかん)・強奪などの事件を数十件起こしたと館山警察署の報告にある。同月3日には正規の占領軍3500人が上陸。館山は本土で唯一の「直接軍政」が敷かれた。

フォーラム共同代表の池田恵美子さんは「上陸の物々しい状況を目の当たりにした寺崎は、占領軍の姿勢も分からない状態では米軍を写実で描くわけにいかず、空想画のように描いたのではないか」と推し量る。「寺崎を知り、寺崎が平和を願った作品を見てもう一度平和について考える機会にしてほしい」と来場を呼びかけている。

企画展は、ゾウに乗ったブッダを描いた「佛尊(ぶっそん)」(42年)なども展示。6月10日まで。入場無料。同1日午後1時半から1時間、ギャラリートークを予定している。問い合わせは、安房文化遺産フォーラム=電0470(22)8271=へ