080830【1】地域まるごと博物館=愛沢伸雄/鈴木政和

テーマ:地域課題と「地域まるごと博物館」構想(講師:愛沢伸雄)

●市民が主役の生涯学習まちづくり

豊かな自然や歴史・文化を活かした安房地域の観光交流が注目されてきた一方で、少子高齢化や過疎化、中心市街地の空洞化をはじめ、医療や福祉から教育・子育てに至るまで、私たちをとりまく社会環境は深刻になりつつあります。

人と人が手をつないで支え合い、活力にあふれ、暮らしやすいコミュニティを築いていくには、どんな可能性があるのでしょうか。「自分たちのまちは自分たちでよくしよう」という思いのある市民同士が出会い、ともに学び合うことから、何かが生まれるかもしれません。

●地域まるごと博物館

日本地図を南北逆さに見たとき、房総半島南部は「へ」の字型になった列島の頂点にあたります。太平洋に開かれた安房は、古代から海上交通の要衝として重要な役割を担ってきました。海や花などの自然環境ばかりでなく、風土に根づく歴史・文化遺産など、今あるものを活かした地域づくりを目ざし、「地域まるごと博物館」構想を提唱してきました。

たとえば館山地区をモデルコースとすると、里見氏の歴史や『南総里見八犬伝』を学べる「城山エリア」、戦争と平和について学べる「赤山エリア」、歩いて渡れる無人島として自然環境が学べる「沖ノ島エリア」、太平洋世界に乗り出した近代水産業の歩みを学べる「北下台(ぼっけだい)エリア」、産業振興や震災復興の歴史が学べる「まちなかエリア」などを巡ることで、安房の豊かな歴史・文化と世界性を学ぶことができます。まるで、地域がそのまま博物館といえます。

安房の地は、百〜二百年のサイクルで、大きな戦乱や地震・津波災害などに襲われてきました。そのたびに先人たちは力を合わせて、創意工夫で困難な状況を乗り越え、教育によってその知恵を継承してきました。よその地から漂着した海洋民を受け入れ、助け合ってきた痕跡も見ることができます。

これらのことから浮かび上がってくるのは、先人たちが培った〝平和・交流・共生〟の精神です。この精神を語り継ぎ、実践することが、地域活性化の鍵になるのではないでしょうか。NPO活動は、二一世紀における新しい市民参画型地域づくりの試みといえます。

 事例:水産業の歴史を活かした国際交流(講師:鈴木政和)