曲亭馬琴と『南総里見八犬伝』

戦国時代の安房国。かつて処刑した悪女玉梓の怨霊にとりつかれた滝田城主里見義実は、「敵将安西景連の首をとってきたら、伏姫を嫁にやろう」と愛犬八房に言ってしまった「言の咎(とが)」によって、愛娘と八房は富山の洞窟に暮らすこととなる。里見の家臣金碗大輔は許婚の伏姫救出に向かい、八房を撃つが、誤って姫に傷を負わせてしまう。八房の気を受けて懐妊していた伏姫は、身の潔白を証明するため自害する。その瞬間、伏姫が身につけていた数珠が空高く舞い、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字を輝かせ、八つの玉は飛び散った。大輔は出家してゝ大法師と名乗り、八つの玉を捜し求める旅に出る。各地で霊玉を持った八犬士たちと出会い、安房国へ連れ帰り、里見家の家臣となった八犬士は里見家の危難を救う。…

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『南総里見八犬伝』は、江戸深川生まれの馬琴(1767〜1848)が、48歳から76歳まで28年間かけて書き上げた壮大な伝奇物語です。原典は106冊におよび、日本の古典文学最長の作品です。馬琴は日本で最初の職業作家といわれ、晩年は失明し、長男の嫁お路に口述筆記をさせたといいます。中国古典『水滸伝』の影響を受けたとされ、勧善懲悪をテーマとして、儒教の「仁義礼智忠信孝悌」と仏教の因果応報を織り交ぜて描かれています。

『房総志料』(中村国香著)を参考に『八犬伝』を書いたといわれ、一度も安房を訪れていないにもかかわらず、富山や滝田城など安房にちなむ地名や人名が多く登場しています。